スキー場が消える?

 ドイツに16年間住んでいるが、2006年の10月から12月は、これまで経験したことのない暖冬だった。

12月前半というのに、雪はほとんど降らずに快晴の日が続き、日向ならば、屋外でもコートを着ないでコーヒーを飲むことができた。

春の鳥であるツグミがさえずり、芝生からは小さな花が顔をのぞかせていた。

動植物が、春が来たと勘違いしたのである。2006年11月の平均気温は、ドイツで150年前に気象観測が始まってから、最も高かった。

 屋外でコーヒーやビールを飲むのが好きなドイツ人たちは、季節外れの日光浴を楽しみながらも「こんなに暖かいのは気持ちが悪い」と話していた。いわゆる地球温暖化の影響なのだろうか。

 ドイツ・バイエルン州の南部やオーストリアのスキー場では、12月まで雪不足に悩まされたが、去年中旬にOECD(経済協力開発機構)は、衝撃的な研究報告書を発表した。

この報告書の中で気象学者のシャルドゥール・アグラワラ氏は、「気候変化が現在のまま続くと、20年後にはドイツで雪量が豊富で、スキー場に適した地域が、現在に比べて60%も減る」と予測している。

特に深刻な影響を受けるのが、バイエルン州南部の、アルプス山麓の地域で、スキー場に適した地域の面積が、今よりも90%減少する。

このほか、オーストリアでも雪量が豊富な地域は現在に比べて20%、スイスでも10%減ると見られている。

 アルプス山脈には、666ヶ所のスキー場があるが、この内9割では、毎年100日間にわたって、雪が30センチ積もる。

観光客がこうしたスキー場に行けば、雪不足でスキーができないことは、まずない。

だが気象学者は、アルプス地方でも、2020年には現在よりも年間平均気温が1度上昇すると予想している。

この場合、毎年100日間にわたって、雪が30センチ積もるスキー場の数は、現在よりも16・5%減る見込みだ。

2090年から2100年までに、年間平均気温が1度上がると、こうしたスキー場の数は、今の3分の1以下の、200ヶ所に減ってしまう。

 スキー客に依存している、アルプス地方のリゾート地にとっては、深刻な打撃である。

たとえばオーストリアでは、観光収入の半分をウインタースポーツから得ている。

OECDによると、1994年、2000年、2002年と2003年に、過去500年間で最高の平均気温が記録されている。

50年後には、オーストリアやドイツでのスキーは昔話になり、バカンス客たちは真冬にもハイキングやマウンテンバイク、ゴルフを楽しむようになるのだろうか。

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2007年1月